記憶術マスター(記憶力マスター)になるには

記憶術マスターは、ある日突然たどり着く一つの地点というより、記憶する過程が次第に自然で自由になっていく方向に近いものです。
記憶術を10年以上にわたって指導してきた中で、私が最も多く受けた質問の一つが、「○○を目標にするには/○○レベルの実力に到達するには/記憶術をマスターするには、『どのくらい』トレーニングすればよいのでしょうか?」というものです。この「どのくらい」という言葉には、次の内容がすべて含まれています。
- 目標とするレベルに到達するまでに必要な「期間」(数か月以上)
- 1日のうちトレーニングに充てる「時間」
- 1週間のうちトレーニングする日数とパターン
- トレーニングの種類やルーティンなど
これらは、記憶術を初めて学ぶ方にとって、どうしても気になるところですよね。そこでこの記事では、それぞれの質問への答えを整理します。ただし、ここで示す内容はあくまで私個人の経験であり、決して一般化できる事実や正解ではないことをお断りしておきます。この記事を通じて、皆さんの疑問が少しでも解消されれば幸いです。
目標とするレベルに到達するまでに必要な期間
必要なトレーニング期間を見積もるには、まず目標とするレベルがどの程度なのかを知る必要があります。記憶術を学ぶ人によって目標とするレベルは異なり、その目的もさまざまです。
特定の種類の情報をうまく覚えるため、学校の勉強で良い成績を取るため、あるいは準備している試験に合格するため、日常生活での集中力や仕事の効率を高めるため、などです。学ぶ目的や理由は人それぞれなので、その目的を達成するために必要な記憶術のレベルも異なります。
単に外国語の単語をうまく覚えたいだけなら、外国語の単語学習に必要な記憶法だけを身につけて練習すれば、比較的早く目標レベルに到達できます。基本的な文法や語源を少しでも知っていれば、1日で身につけることも可能です。もちろん、記憶術を学んで知識として知っていることと、継続的な反復トレーニングによって記憶術のスキルを磨き、レベルを高めることには大きな違いがあります。従来の方法で単純に繰り返し暗記するよりも、記憶術を使って外国語の単語を覚えたほうが、同じ時間でより多くの単語を覚えられるようになるという意味であれば、1日学んで練習するだけでも可能だということです。
一方、学校で1番になることや難しい試験に合格すること、記憶力大会への参加・入賞、記憶術をマスターすることなど、目標が高ければ高いほど、必要な記憶術のレベルも高くなり、それに応じて必要なトレーニング量と期間も増えざるを得ません。実際、この程度のレベルを望む入門者の方が大半でしょう。
このうち、「記憶術マスター」を基準に、必要なトレーニング期間の目安をお話しします。 まず、「記憶術マスター」が意味するレベルがどの程度なのかを知る必要がありますよね。覚える文章を読むとき、意識して「この記憶法を使おう」と考えなくても、頭の中に文章の内容が自然に画像や映像として浮かび、覚えやすい心的イメージへ変換できるレベルです。あるいは、認知的負荷の大きい記憶の宮殿のような記憶術を、大きな認知的負担なしに(軽い文章を読むように)苦労せず実行できるレベルです。ここまでできれば、記憶術をマスターしたと言えるでしょう。
この「記憶術マスター」のレベルまでに必要な予想トレーニング期間は、およそ3か月から数十年の間です。なぜこれほど幅が広いのでしょうか。いくつか理由があります。
1. そもそも記憶術をマスターした人は、数えるほどしかいません。
実際、記憶術をマスターしたことを証明するだけでも簡単ではありません。たとえば、難しい試験に合格した人が、自分は記憶術をマスターしていたから簡単に合格できたと主張しても、それを証明する方法はありません。実際には3年以上勉強しておきながら、自分は記憶術を使って6か月で合格したと嘘をつくこともできるわけです。
証明する方法がまったくないわけではありません。実際の「記憶力大会」での入賞歴が、その中でも最も客観的な証明方法です。記憶力大会では、会場で参加者全員に同じ「記憶時間」と同じ「リコール時間」、そして同じ「情報(出題内容)」が与えられます。受験者ごとに準備してきた学習時間がどうしても異なる一般的な試験とは違い、すべての参加者に同じ学習時間が与えられます。したがって、記憶術に精通していない限り、記憶力大会で上位に入ることは事実上不可能な仕組みです。
このような事情があるため、記憶術マスターたちの大会受賞コメントやインタビュー、ブログ記事などを通じて、彼らのトレーニング期間を聞くしかないのですが、期間には実に大きなばらつきがあります。私のように、短くて2〜3年、長ければ数十年にわたって練習してから出場した大会で入賞した選手がいる一方で、私から学び始めてわずか3か月で、すぐに総合準優勝を果たした生徒もいたからです。(ちなみに、その生徒は現在、メタマインドの主任講師であるイ・ユンジ先生で、次の大会ではついに私を抜いて総合優勝を果たしました。)
ある人は3か月で記憶術をマスターし、別の人は何年続けてもマスターできないかもしれません。このように人による差が非常に大きいため、入門者の方からトレーニング期間について尋ねられるたびに、答えに困るのが正直なところです。「人それぞれで、正解はありません」と曖昧に答えるのもどうかと思い、「早ければ3〜6か月、遅ければ1年以上かかることもあります」と、曖昧な答えを返すしかありません。
2. 個人差の要因
人それぞれ、生まれ持った性向や気質、これまで過ごしてきた環境、受けてきた教育の量と質、経験がすべて異なります。同じ時間だけ同じトレーニングをしても、実力が伸びる速さは人によって大きく異ならざるを得ません。特に記憶術では、心的イメージを作る力と連想力、集中力、もともと持っている背景知識、学習習慣などが、トレーニングの成果にかなり大きな影響を与えます。
たとえば、頭の中に場面を生き生きと思い浮かべることに慣れている人は、新しい情報を画像に変える過程にすぐ適応します。一方で、「りんごを思い浮かべてみて」と言われたとき、りんごの色や形さえはっきり描けない人もいるでしょう。だからといって、心的イメージを作る力が弱い人は記憶術を身につけられないという意味ではありません。ただ、最初は情報を画像に変換するのにより多くの時間と努力が必要になることがあり、その分、目標レベルに達するまでの期間も長くなる可能性があります。
もともと持っている知識や経験の量も重要です。記憶術は、まったく新しい情報を何もない状態から保存する技術というより、初めて触れた情報をすでに知っている知識や画像と結びつけて覚える技術に近いものです。そのため、さまざまな分野の知識や経験が豊富な人ほど、新しい情報を結びつける材料を多く持っています。同じ単語や概念を見ても、すぐにいくつもの画像や物語を思い浮かべる人がいる一方で、連想できる題材を見つけられず、長い間考え込む人もいるわけです。
性格や考え方も影響します。完璧主義の傾向が強い人や、すべての連想に論理的なつながりを持たせようとする人は、かえってトレーニングのペースが遅くなることもあります。記憶にしっかり残すための画像は、必ずしも現実的であったり論理的であったりする必要はありません。大げさでおかしく、時には荒唐無稽であるほど記憶に残りやすいものです。それを不自然に感じたり、「こんなあり得ない想像をしてもいいのだろうか?」と何度も検閲したりしていると、画像一つを作るのに時間がかかりすぎます。
反対に、最初から完成度の高い画像を作ろうとするよりも、まず素早く思い浮かべて先へ進む人のほうが、実戦に適応するのが速い傾向があります。最初は多少粗い連想でも、繰り返し使っているうちに、どんな画像が記憶に残りやすいのかを感覚的に理解するようになり、次第に短時間で効果的な心的イメージを作る力が発達するからです。
トレーニングへの姿勢と継続性も欠かせません。1日に何時間練習したかと同じくらい、どれだけ継続してトレーニングしたか、自分の弱い部分を正確に把握して補えているかが重要です。週に1日、まとめて5時間トレーニングするよりも、毎日30分から1時間ずつ集中して練習するほうが効果的な場合が多くあります。記憶術は単に方法を理解するだけで終わるものではなく、画像への変換、空間への配置、想起の過程を繰り返して、一つの自動化された思考習慣にするためのトレーニングだからです。
同じ問題を何度も繰り返すだけでは、実力が伸び悩むこともあります。自分が情報を画像に変える段階で遅いのか、記憶の宮殿に配置する過程でミスをするのか、それとも覚えてはいるものの想起するときに順番が混乱するのかを区別しなければなりません。そして、原因に合ったトレーニングをする必要があります。適切なフィードバックを受けたり、自分の実行過程を記録して分析したりする人が、ひとりで勘に頼って練習する人より早く成長する理由もここにあります。
結局のところ、生まれ持った能力が実力の向上速度に影響するのは事実ですが、生まれ持った能力の差が、最終的な実力の限界を決めるわけではありません。心的イメージを作るのが苦手で、連想も遅かった人でも、継続的なトレーニングによって高いレベルに到達できます。ただ、出発点と学習速度、トレーニングの効率がそれぞれ異なるため、同じ目標に到達するまでに必要な期間には大きな差が生じるのです。
このほか、年齢の影響も無視できません。ほかの運動や技能と同じように、記憶術も比較的若いうちに始めるほど、新しい考え方に早く適応する傾向があります。実際、記憶力スポーツの大会でも若い選手の活躍が目立つことが多く、私が長年記憶術を指導してきた経験から見ても、大人より若い学生のほうが実力の伸びも速い傾向にありました。
大人になるにつれて、言語やテキストを中心に考える方法が固まっていくため、自由に画像を思い浮かべたり、突飛な場面を想像したりすることが次第に難しくなるのかもしれません。創造的な考えや非論理的な考えを自分で検閲する習慣も身につきます。しかし、記憶術をうまく使うには、むしろ非現実的で大げさで突飛な想像をためらわずにできなければなりません。平凡で論理的な場面よりも、あり得ない場面のほうが記憶にずっと強く残るからです。
だからといって、年齢が高いと記憶術をうまく使えないという意味では決してありません。大人は若い学生よりも背景知識や経験が豊富で、自分の学習目的を明確に理解し、トレーニングの過程を自分で確認できるという利点があります。最初は画像で考える方法に違和感があっても、続けて練習すれば十分に慣れることができます。実力の伸びる速度は若い学生より遅くても、目標に到達できる忍耐力と粘り強さは、大人の学習者の武器です。
また、頭の中に写真のように鮮明な画像を思い浮かべられないからといって、記憶術を使えないわけでもありません。画像の鮮明さと同じくらい重要なのは、情報同士の関係を作り、特定の場所や物語と結びつけ、あとで再び思い出せるようにすることです。ぼんやりした形や動き、空間感覚、音、感情、概念的な感覚だけでも、記憶術は十分に機能します。
結局、目標レベルに到達するまでに必要な期間は、生まれ持った能力と後天的な努力、個人が置かれた状況や環境などによって複合的に決まります。出発点、トレーニングの頻度と強度、方法、フィードバックの質、継続性、学習目的など、さまざまな要素が複合的に作用します。そのため、別の人が3か月で達成したレベルを、自分も必ず3か月以内に達成しなければならないと考える必要はありません。重要なのは、他人と比べることではなく、以前の自分よりも少しずつ速く正確になっているかを確認することです。
だから私は、むしろ受講生の皆さんに目標を決めないよう勧めています。ここでいう「目標」は、曜日ごとのトレーニングルーティンや、1日のトレーニング量をこなすことを指しているのではありません。「記憶術をマスターする」のような、「目標を達成するための手段としての目標」を指しています。記憶術のトレーニングを、目標を達成するための手段として行った瞬間、毎日のトレーニングは、目標地点との隔たりと失敗の挫折感を味わう地獄になってしまいます。記憶術を使って突飛な画像や楽しい場面を想像しながら、自然に浮かんでくる記憶に驚き、その瞬間を楽しんでください。そうしているうちに、ある日ふと、目標としていたレベルに達している自分に気づくはずです。
1日にどのくらいトレーニングすべきか?
ここでは、1日のうち記憶術のトレーニングにどのくらい時間を充てるべきかについてお話しします。
結論から言えば、記憶術を初めて学ぶ人には、1日30分から1時間程度が最も現実的です。もちろん、1日に2時間、3時間以上トレーニングすることもできますが、初心者に必ず長いトレーニング時間が必要なわけではありません。むしろ無理に長時間トレーニングすると、集中力が落ち、画像への変換が次第に遅くなり、トレーニング自体に負担を感じるようになることがあります。
記憶術のトレーニングは、単に問題を長時間見つめる勉強ではありません。情報を画像に変え、画像同士の関係を作り、記憶の宮殿の中の場所に配置し、もう一度順番どおりに想起しなければなりません。この過程では、思っている以上に多くの認知的エネルギーを使います。1時間きちんと集中して記憶術をトレーニングしたら、一般的な学習を1時間したときよりも、はるかに疲れを感じることさえあります。
したがって、最初は長い時間よりも高い集中度を維持することが重要です。30分集中してトレーニングするほうが、2時間なんとなくトレーニングするよりもはるかに良いのです。
私個人としては、次のような基準を勧めます。
- 記憶術入門者:1日30分〜1時間
- 基礎を固める段階:1日1時間〜2時間
- 早い実力向上を目指す段階:1日2時間〜3時間
- 記憶力大会に備える段階:1日3時間以上
ただし、これはあくまで大まかな目安です。記憶術を学校の勉強や資格試験に活用しようとする人なら、記憶術だけのトレーニング時間を長く確保しなくてもかまいません。実際に勉強しながら、学んだ内容を画像に変え、記憶の宮殿に配置する過程そのものが、記憶術のトレーニングになるからです。
一方、記憶力大会で高い成績を目指すなら、話は変わります。数字、カード、顔と名前、単語、歴史上の年号など、さまざまな種目を制限時間内に速く正確に覚えなければならないため、記憶法を適用できるだけでは不十分です。画像への変換速度や配置速度、想起の正確さまで、繰り返し測定して改善する必要があります。
ここで重要なのは、トレーニング時間を無条件に増やすことではなく、今の自分の弱点に合わせて時間を使うことです。数字を画像に変える速度は速いのに、画像同士を結びつけるときや記憶の宮殿で画像が混ざってしまうなら、場所の区別、画像の配置、結合のトレーニングが必要です。覚えるときはうまく覚えた気がするのに、想起すると順番が頻繁に入れ替わるなら、想起の経路や復習方法に問題があるのかもしれません。
重要なのは、今日何時間トレーニングしたかではなく、今日どんな課題を見つけて何を改善したかです。
1週間に何日トレーニングすべきか?
記憶術は、1回にまとめてトレーニングするよりも、短時間でも頻繁に使うほうがよいでしょう。
たとえば、日曜日だけ5時間トレーニングするよりも、月曜日から金曜日まで毎日1時間ずつトレーニングするほうが、実力を伸ばすうえで有利です。記憶術は単なる知識ではなく、一種の思考習慣だからです。
最初は文章を読むたびに、「この内容をどんな画像に変えよう?」「どの場所に入れればいい?」と意識して考えなければなりません。しかし、この過程を頻繁に繰り返すと、情報を見た瞬間に画像が浮かび、特に意識しなくても、もともとの知識や場所と結びつけられるようになります。
一般的な学習目的なら、週4〜5日ほどトレーニングすることを勧めます。毎日トレーニングしてもかまいませんが、必ず1日も休まず続けなければならないわけではありません。疲れがひどかったり、画像がうまく浮かばなかったりする日は、十分に休んでもよいのです。
大切なのは、1日休んだことを理由に、トレーニング全体をあきらめないことです。多くの人は、計画していたトレーニングを1日か2日守れないと、「もう計画を台無しにした」と考えて、完全にやめてしまいます。しかし、記憶術の実力は1日の成功や失敗ではなく、数か月にわたるトレーニングの積み重ねによって作られます。
次のようなパターンで始めてみてもよいでしょう。
- 月曜日〜金曜日:1日30分ずつ、基礎トレーニングと記憶力スポーツの種目を練習
- 土曜日:実際の勉強や長い文章に記憶術を適用するトレーニング
- 日曜日:休息、または1週間の間に覚えた内容を復習
たくさんトレーニングしたい人でも、週に1日ほどはしっかり休むのがよいでしょう。休息はトレーニングをしない時間ではなく、次のトレーニングに向けて集中度を回復する過程だと考えてください。
どのようなトレーニングをすべきか?
記憶術の実力を高めるには、記憶の宮殿だけを単純に繰り返し使ってはいけません。記憶術を構成するさまざまな能力に分けて、トレーニングする必要があります。
代表的には、次のような能力が必要です。
1. 画像への変換能力
単語や文章、数字、抽象的な概念を、覚えやすい画像に変える能力です。
たとえば、「経済成長」や「社会的責任」のように目に見えない概念を、テキストのまま覚えようとすると難しくなります。経済成長を、ドルが舞い、上へ伸びていく金色のグラフに、社会的責任を、重い地球を背負った人に変えるといった具合に、具体化する必要があります。
最初から抽象的な単語や概念を画像化するのは難しいかもしれません。そのため、記憶力スポーツの種目である数字やカード、簡単な単語から練習するとよいでしょう。トレーニングを始めて間もないころは、画像一つを作るのに時間がかかることがあります。しかし、さまざまな情報を繰り返し画像に変えていると、よく使う画像が蓄積され、次第に変換速度が速くなります。
2. 結合能力
それぞれの画像を互いに強く結びつける能力です。
画像同士が一つの場面の中でぶつかったり、動いたり、音を出したり、形を変えたりするようにします。いくつもの物が単に横に並んでいる場面よりも、互いに強く作用し合う場面のほうが記憶に残ります。
たとえば、りんごと車を結びつけるなら、車の横にりんごが置かれている場面よりも、巨大なりんごが車の上に落ちて、汁が飛び散る場面のほうがはるかに効果的です。
3. 記憶の宮殿を活用する能力
慣れ親しんだ空間の各場所に、覚える画像を順番どおりに配置する能力です。
初心者は、場所の順番がよく分からなくなったり、一つの場所に情報を詰め込みすぎたりするミスを犯します。最初は自宅や学校、通勤・通学路のような、とても慣れた場所を使い、その中の各ポイント(Locus)どうしの間隔をはっきり区別するとよいでしょう。
記憶の宮殿は、たくさん作ることよりも、安定して使える場所を作ることが先です。最初は家や公園のような1〜2か所程度から始め、順番を見なくても自然に移動できるほど覚えてから、広げていくのがよいでしょう。
毎朝、目を覚ましたらすぐに目を閉じ、横になったまま、自分の記憶の宮殿を一周してみる習慣(朝のルーティン)をつけると、実力を大きく伸ばすための非常に良い土台になります。
4. 想起能力
記憶術のトレーニングで、意外におろそかにしやすいのが想起です。
多くの人は、情報を記憶の宮殿に入れる過程だけに集中し、実際に取り出すトレーニングは十分に行いません。しかし、記憶は保存したときではなく、必要なときに正確に取り出せてこそ意味があります。
覚えた直後だけでなく、一定の時間がたってからも想起してみなければなりません。また、最初から思い出すだけでなく、途中の地点から想起したり、逆順に思い出したり、特定の項目だけを選んで探したりするトレーニングも役立ちます。
5. 実際に応用する能力
ランダムな単語や数字をうまく覚えられるからといって、すぐに勉強が得意になるわけではありません。しかし、単語や数字のような簡単な情報にも記憶術を適用できないなら、抽象的な概念や文章のまとまりである実際の学習内容には、なおさら適用しにくいでしょう。
学校の勉強や試験では、概念の意味と構造を理解し、似た内容を区別し、問題に合わせて取り出す必要があります。特に、すべての内容に記憶術を適用するのではなく、理解しにくかったり、間違えやすかったりする問題に含まれる概念を中心に、記憶術を適用する必要があります。そのため、基礎トレーニングを積んだうえで、自分が実際に勉強している教材や資料に、少しずつ記憶術を適用してください。
記憶力大会が目標なら大会の種目を中心にトレーニングし、外国語の単語が目標なら発音と意味を結びつけるトレーニングをしなければなりません。試験合格が目標なら、目次と重要概念、条件、例外事項を体系的に整理して覚えるトレーニングが必要です。
記憶術は、あらゆる目的に同じ形で適用される一つの技術ではありません。目的に応じて、適した記憶法とトレーニング方法を変える必要があります。
入門者におすすめのトレーニングルーティン
1日1時間ほどトレーニングすると仮定すると、次のように組み立てられます。
10分:画像への変換
ランダムな単語や数字を見て、すばやく画像に変えます。最初は画像の完成度よりも、決められた時間内に関連する単語を思い浮かべることに集中します。
15分:結合トレーニング
複数の画像を一つの場面や映像に結びつけます。動き、音、大きさの変化、感情、衝突などを積極的に使います。最初からあまり多くの画像を結びつけるのではなく、毎日一つずつ増やしていくつもりで練習します。
- おすすめのトレーニング種目:イメージ、顔と名前
20分:記憶の宮殿トレーニング
10〜20個の情報を記憶の宮殿に配置し、順番どおりに想起します。慣れてきたら、覚える情報の量を少しずつ増やします。
- おすすめのトレーニング種目:ランダムな単語、数字、カード
10分:遅延想起
以前に覚えた内容や、トレーニングの序盤に覚えた情報をもう一度思い出します。思い出せない部分について、どの画像が弱かったのかを確認します。
5分:トレーニングの記録
覚えた情報の量、かかった時間、間違えた数、難しかった部分を簡単に記録します。
トレーニングの記録は、思っている以上に重要です。記録しなければ、実力が向上しているか正確に分かりにくく、うまくいかなかった日の感覚だけが強く残って、「いくらやっても伸びない」と誤解しやすくなります。
たとえば、最初は単語20個を覚えるのに10分かかり、5個間違えていたのが、2日後には単語20個を11分で覚え、1個しか間違えなかったなら、明らかな進歩です。このような変化を確認することは、トレーニングを続けるうえでも役立ちます。
ただし、毎日自己最高記録に挑戦する必要はありません。正確さを高める日、速度を高める日、新しい記憶の宮殿を作る日、実際の勉強に適用する日を分けるほうがよいでしょう。
毎回速度だけを高めようとすると、画像が粗くなり、正確さが落ちる可能性があります。反対に、常に間違えないようにと過度にゆっくり覚えようとすると、速度は向上しません。速度と正確さのバランスを調整しなければなりません。
どの程度できれば、記憶術をマスターしたと言えるのか?
記憶術をマスターしたかどうかは、単にいくつの情報を覚えられるかだけで判断するのは難しいものです。
5分以内にランダムな単語100個を覚えられても、実際の勉強では記憶術をうまく活用できないかもしれません。逆に、記憶力大会の記録がなくても、自分が学んでいる分野の内容を速く正確に構造化して覚えられるなら、実用的な意味では高いレベルに達していると言えるでしょう。
私が考える記憶術マスターの基準は次のとおりです。
第一に、情報に触れたとき、記憶法を使おうと毎回意識しなくても、自然に画像や連想が浮かびます。たとえば本を読むとき、文章の内容が抽象的でも、頭の中には関連する画像や場面が自動的に浮かびます。
第二に、記憶の宮殿を使うとき、場所を探して画像を配置する過程に大きな認知的負担を感じません。
第三に、数字、単語、文章、概念、人物、順番の記憶など、異なる種類の情報ごとに適切な方法を選べます。
第四に、記憶に失敗したとき、失敗の原因を自分で把握して修正できます。
第五に、記憶力のトレーニングだけでなく、実際の勉強や仕事、日常生活でも、滞りなく記憶術を活用できます。
第六に、初めて触れる情報でも、自分の既存の知識と結びつけて、すばやく記憶の体系を作れます。
結局のところ、記憶術マスターとは、いくつかの記憶法をたくさん知っている人ではありません。状況に合った記憶法を選び、大きな努力なしに自然に使い、必要なときに正確に情報を取り出せる人だと言えます。
現実的には、どのくらいの期間を見込めばよいか?
先ほど、記憶術をマスターするのに必要な期間を、短ければ3か月、長ければ数十年と表現しました。しかし、この範囲は広すぎて、実際の目安としては使いにくいと感じる方もいるでしょう。
私の経験をもとに成長段階をもう少し具体的に分けると、次のようになります。
1日〜1週間
基本的な連想法と記憶の宮殿の原理を理解し、短い単語やリストに適用できる段階です。
英単語や買い物リストのような比較的単純な情報なら、初めて学んだその日から、従来の繰り返し暗記よりも効率よく覚えられると実感することもあります。
2週間〜1か月
情報を画像に変える過程に少しずつ慣れ、短い記憶の宮殿を活用できる段階です。
ただし、まだ画像一つを作るのに時間がかかり、画像同士を自然に結びつけられず、記憶法を使うこと自体が負担に感じられるかもしれません。
3か月〜6か月
継続的にトレーニングしていれば、記憶術の基礎がある程度自動化される時期です。
画像への変換速度が速くなり、複数の記憶の宮殿を活用でき、自分が勉強している内容にも少しずつ記憶術を適用できるようになります。トレーニング環境や個人差によっては、この期間内に記憶力大会で良い成績を収められるほど急速に成長する人もいます。
6か月〜1年
さまざまな情報に記憶術を適用し、自分の弱点や長所を把握できる段階です。
この程度になると、学んだテクニックをまねるだけの段階を離れ、自分なりの画像体系と記憶戦略を作り始めます。勉強や仕事でも、記憶術を比較的安定して活用できるようになります。
1年以上
記憶術を一つの技術ではなく、考え方として身につけていく段階です。
情報を見た瞬間に、自然に構造や画像、つながりを把握し、目的に合わせて複数の記憶法を組み合わせられます。記憶力大会で高い記録を目指したり、さまざまな分野の情報を自由に扱ったりするには、この段階のあとも長いトレーニングが必要になることがあります。
もちろん、この期間は1日にどのくらいトレーニングするか、どのような方法でトレーニングするかによって大きく変わります。週に1回軽くトレーニングした人の1年と、毎日集中的にトレーニングした人の1年は、同じではありません。
また、記憶術には明確な卒業時点がありません。最初は単語20個を覚えることが目標でも、それができるようになれば50個を目標にするようになり、その後はもっと速く覚えたり、もっと長く保持したりしたくなります。勉強に活用し始めると、単純なリストだけでなく、複雑な概念や論理構造まで覚えたくなるでしょう。
したがって、記憶術マスターとは、ある日突然たどり着く一つの地点というより、記憶する過程が次第に自然で自由になっていく方向に近いものです。
おわりに
記憶術を学ぼうとする方がトレーニング期間を知りたがるのは当然です。目標に到達できるか、どれだけ時間を投資すべきかが分からなければ、始めるのをためらってしまうことがあるからです。
しかし、記憶術を学ぶうえで最も警戒すべき考えの一つが、「数か月以内に必ずマスターしなければならない」という焦りです。記憶術を早く学ぶことと、正しく学ぶことは別です。最初から速く覚えようとすると、画像や連想が粗くなり、ほかの人の記録と自分を比べているうちに、トレーニングの楽しさを失うことがあります。
最初は、単語10個をきちんと覚えることから始めてもかまいません。画像一つを作るのに30秒かかっても大丈夫です。継続してトレーニングしていると、30秒が10秒になり、さらに数秒まで短くなって、いつかは特別な努力をしなくても画像が浮かぶ瞬間が訪れます。
記憶術をマスターするのに正確に何か月かかるのか、断言することはできません。3か月で驚くほど高いレベルに達する人もいれば、何年もトレーニングしながらゆっくり成長する人もいます。
明らかなのは、正しい方法で着実にトレーニングすれば、必ず最初の状態より良くなるということです。記憶術マスターになるために最も必要な才能は、優れた記憶力や生き生きとした想像力だけではありません。メタ認知を働かせて自分の不足している部分を受け入れ、失敗した記憶をもう一度振り返り、今日ももう一度情報を画像に変えてみる継続力です。
だから、最初から記憶術を完璧に使おうとしないでください。まずは一つの情報を画像に変え、一つの場所に配置し、少しあとでもう一度思い出してみてください。その小さな過程を繰り返すほど、記憶術はもはや無理に使う特別な技術ではなく、皆さんが情報を理解して覚えるための自然な考え方になっていくでしょう。
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